2019年03月27日

畳職人の『徒然不定期コラム』〜畳と伝統(畳床)

「伝統」とは、時代に合わせた変化を加えながら次世代へと受け継いでいく文化である、

そのように思っています。


平成という時代も間も無く終わりを迎え、新たな元号を迎い入れます。

畳の文化は奈良時代から発祥されたと云われていますが、その時代から変化を経て

現代の畳が存在します。

このおよそ1,300年という長い期間を考えれば、変化していくことも当然のように思えます。

ですが、この平成の始まりから終わりにかけたおよそ30年の歳月においても、だいぶ畳の変化

が定着してきたように思えます。

畳職人の『徒然不定期コラム』〜畳と伝統(畳床)

まずその一つは土台である畳の床(とこ)です。

30年前の畳床の主流は稲わらを使ったいわゆる「わら床」というものでした。

米を収穫し、要らなくなった稲わらを集めて圧縮して縫い込み、畳の土台であるわら床を作っ

ていました。

わらを圧縮しているため、目方も30〜35キロとそれなりの重さのあるものでした。

平成の始まりの頃には、現在の主流である「建材床」も出始めていましたが、一般住宅ではまだ

受け入れられず、限られた一部の現場で使用される程度でした。

「こんなものは畳とは認めん!」と思っている職人たちが多かったのだと思います。

実際には建材床であれば、目方も10〜15キロ程度と軽く、製造工程においても寸法に合わせて

切断したらそのまま畳表を張り付ければいいため、作業効率もよかったと思います。

作業性の効率の良さに戸惑いを持っていたのかもしれません。

畳職人の『徒然不定期コラム』〜畳と伝統(畳床)

ですが、わら床の場合はそう単純にはいきません。

床を切断すれば、小針が効いているとはいえ徐々に膨らんできます。

それを予防するために、切断後には止め縫いの作業を施します。

畳職人の『徒然不定期コラム』〜畳と伝統(畳床)

また厚みも一定ではないため、わらを足すなどして厚みの微調整をします。

手間をかけて一畳を製作し、運搬にも体力を使うのが当たり前であったわけですから、

認めたくない気持ちもわかります。

ですが時代を経て10年20年と経過するうちに、建材床のシェアが徐々に増え、今となっては

わら床の新規の畳は数パーセント程度しか製作されていません。

時代の移り変わりにより、修行を積んだ職人にしか作れないものが、機械化によりより多くの人にも

作れるようにと変化し、また素材も機械化により順応しやすく容易にそして効率的に作れる

よう変化してきました。

畳職人の『徒然不定期コラム』〜畳と伝統(畳床)

素材としてのわら床のメリットとしては、自然な柔らかさのある感触だと思います。

ゴロンと寝転んだ時に程良い柔らかさがあるところが心地いいところです。

建材床は一般的には感触が硬めとなります。

現在でもほとんどの建材床が硬めではありますが、クッション性の良い不織布などを組み合わ

せる事により、程良い感触にすることも可能とはなっています。

畳職人の『徒然不定期コラム』〜畳と伝統(畳床)

他にわら床の方が優れているところは、耐久性です。

50年程の長期に渡り、使われている物も結構あるのです。

場合によっては、100年くらい使われている場合も稀ではありますが存在します。

ここまで使い込まれているとさすがに凸凹も増えてきますが、定期的にメンテナンスをすれば

長持ちさせる事も可能なのです。


建材床との大きな違いとしては、床に針穴が開かないことです。

建材床では、何回も張替えを重ねていくと針穴が大きくなり床が傷んできますが、わら床の

場合はわらが収縮するため針穴が開きません。

ですから10回でも20回でも張替えをしても大丈夫なわけです。

建材床では5、6回も張り替えれば床はそれなりに傷んできます。

ですが実際にそこまでこまめに張替えをする場合は少なく、5、6回も張り替えれれば役割は

果たされているのであろうということもあり、

現代では建材床でも問題がないのかもしれません。


実際に需要が減少すれば、大元もそれを作らなくなってきます。

畳床は畳屋さんが作るわけではなく、畳床の床屋さんが作り、それを畳屋さんが仕入れて

います。

わら床の場合では、米の収穫が盛んな地域でもある、宮城や新潟などで多く作られて

いました。

ですがわら床の需要の減少に伴い、床屋さんも数多く廃業していっています。

わら床の場合は、作り手の床屋さんにより品質も変わってきます。

わらの並べ方やムラのとり方など、技術の違いが製品に表れます。

品質の良いわら床は、何十年使い込んでも凸凹にもなりにくく、良い状態で長持ちします。

良いものを作れる職人たちが絶えていってしまうとこは、非常に残念なところです。


逆に建材床は、作り手の技量がそこまで左右されないため、安定した品質のものを手にいれる

ことができます。

厚みの異なったボードやフォームを組み合わせて作るため、13mm〜60mmの幅広い厚みに

対応できます。

ボーどやフォームは平らにできているため、品質のバラツキもほぼありません。

あえて言えることは、どう組み合わせをするのかということです。

畳屋さんにより、好みがあるため組み合わせのタイプは異なります。

種類は大きく分けて3通りあり、俗にⅠ型、II型、III型と呼んでいます。

畳職人の『徒然不定期コラム』〜畳と伝統(畳床)

I型はボードだけのタイプとなり、主に薄めの厚みの時に多く利用されています。

ボードだけとなるため、湿度には弱い傾向があります。

畳職人の『徒然不定期コラム』〜畳と伝統(畳床)

II型は下側にフォームがくるため、下からの湿気を抑える効果があります。

またボードを重ねることにより、耐久性も増します。

ただ下側がフォームとなるため、タッカーの効きが弱い傾向があります。

畳職人の『徒然不定期コラム』〜畳と伝統(畳床)
III型(左)とII型(右)

III型はフォームをボードで挟んでいるため、下側からタッカーで止める際にはガッチリと

効きます。

ただ下側もボードのため、湿気の多いところではあまり適しません。

また何度も張替えを繰り返すと、下側のボードが傷みやすい傾向があります。


畳は、重たいものから軽いものへと移り変わりつつある昨今の畳事情。

わら床は新規では減少ではあるものの、耐久性があるため張り替える畳としてはまだまだ多く

残されています。

床の素材も、時代と共に環境に適応しながら移り変わってゆく姿をみてきたように思えます。

ちょっとした変化を重ねながらその時代に合わせ、これからも伝統は残されていくのかと

思います。




Posted by kame at 18:02│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
畳職人の『徒然不定期コラム』〜畳と伝統(畳床)
    コメント(0)